「給料を上げてほしいけれど、どう切り出せばいいか分からない」と悩む方は少なくありません。昇給交渉は、会社の昇給の基準を確かめ、評価が決まる前に、実績を数字で示して相談することが基本です。
当記事では、昇給の仕組み、交渉のタイミング、準備の手順、言い方とメールの例文、希望額の目安を、厚生労働省の調査と労働基準法をもとに解説します。
昇給交渉の前に知っておきたい昇給の仕組み
給料がどのような仕組みで上がるのかを知っておくと、何を根拠に話せばよいかが分かります。
昇給には「定期昇給」と「ベースアップ」があり、多くの会社では評価で額が変わる
会社の昇給は、「定期昇給(定昇)」と「ベースアップ(ベア)」の2つに分けられます。厚生労働省の調査での定義は次の通りです。
| 種類 | 内容 | 個人の交渉が効きやすいか |
|---|---|---|
| 定期昇給(定昇) | 就業規則などで決められた制度に従い、毎年一定の時期に上がる昇給。年齢・勤続年数による自動昇給と、能力・業績の評価による昇給がある | 評価で額が変わる会社では、評価の材料を示すことで変わる余地がある |
| ベースアップ(ベア) | 賃金表そのものを書き換えて、賃金の水準を全体的に引き上げること | 会社全体で決まるため、個人の交渉では変わりにくい |
引用:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査 主な用語の定義」
同じ調査によると、定期昇給制度がある企業は81.2%で、その内容(複数回答)は「自動昇給」が27.5%、「その他(業績評価など)」が72.4%でした。定期昇給がある会社の多くは、評価によって昇給額が変わる仕組みで、個人の相談で結果が動きやすいのはこの部分です。一方、ベアは会社全体で決まるため、会社の発表や労働組合の動きを確認しておくのが現実的です。
※常用労働者100人以上の民間企業が対象。令和7(2025)年中の状況(9〜12月の予定を含む)。引用:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(令和7年10月公表)
昇給の時期と基準は就業規則や賃金規程で確かめられる
自分の会社の昇給のルールは、就業規則や賃金規程の「昇給に関する事項」で確かめられます。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、昇給に関する事項を含む就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることを定めています。就業規則は、掲示や書面の交付などで労働者に周知することも求められています(同法第106条・e-Gov法令検索「労働基準法」)。
次の点を確認しておきましょう。
- 昇給の時期(何月の給与に反映されるか)
- 昇給の基準(等級・評価ランク・勤続年数など何で決まるか)
- 評価のスケジュールと、昇格(等級が上がること)の条件
何年も給料が上がらない原因が会社の仕組みにあるのか、業界やスキルにあるのかは、年収が上がらない理由と対処法で詳しく解説しています。
会社が昇給額を決めるときに最も重視するのは「企業の業績」
同じ調査で、賃金の改定額を決めるときに最も重視した要素は、「企業の業績」が41.7%で最多でした。次いで「労働力の確保・定着」が17.0%、「雇用の維持」が11.9%、「世間相場」が7.7%です。
※令和7(2025)年中に賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業が対象。引用:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
相談では「いくら欲しいか」より、業績にどう貢献したか、今後も力を発揮し続けられるかを伝えるほうが、会社の判断の軸に合います。世間相場を最も重視する企業は1割に満たないため、「相場より低い」だけでは決め手になりにくいと考えておきましょう。
昇給交渉のタイミングは評価面談と賃金改定の前
同じ内容でも、切り出す時期によって通りやすさは変わります。
いちばん切り出しやすいのは評価面談と目標設定の面談
上司と1対1で評価や処遇を話す評価面談・目標設定の面談なら、急に呼び出すより自然に切り出せます。期初に「どの成果を出せば次の等級に上がれるか」を確認しておけば、期末にその達成度をもとに相談できます。
賃金改定の時期より前に伝えると、検討の時間を取ってもらいやすい
厚生労働省の調査では、2025年の賃金の改定は全企業のうち78.2%が「1〜8月のみ」に行っていました。昇給額は上司の評価、人事の調整、経営の承認と段階を踏んで決まることが多いため、自分の会社の改定月より前、評価がまだ固まっていない時期に相談するのが目安です。改定月を過ぎると、次の改定まで待つことになる場合があります。
※常用労働者100人以上の民間企業が対象。改定の実施時期は、改定後の賃金が給与計算に適用される時期。引用:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
業績が良い時期や担当業務が増えたときも話を出しやすく、繁忙期は避ける
会社や部署の業績が良い時期は、昇給の原資を確保しやすいタイミングです。また、後輩の指導を任された、退職者の業務を引き継いだ、資格を取って担当業務が広がったといった変化があったときは、役割と給与のずれを根拠に話を出しやすくなります。
反対に、繁忙期や業績が悪化した直後は「今は難しい」で終わりやすく、人前での立ち話も向きません。
昇給交渉のやり方(3つの準備と面談の進め方)
昇給交渉は、面談での話し方より事前の準備で差がつきます。次の順に進めましょう。
手順1:昇給が「いつ」「何で」決まるかを確かめ、交渉の目標を決める
昇給が評価ランクで決まる会社なら、交渉の目標は「評価ランクを一段上げてもらうこと」、等級ごとに給与の幅が決まっている会社なら「次の等級に上がること」です。資料を読んでも分からない部分は、面談で「次の等級に上がるには何が必要ですか」と聞けば確認できます。
手順2:1年間の実績を数字と事実で整理し、A4用紙1枚の資料にする
交渉の根拠は、会社への貢献を数字や事実で示した実績です。「頑張りました」「残業が多かった」は評価の材料になりにくいため、次のように置き換えます。
| 実績の種類 | 置き換え方の例 |
|---|---|
| 売上・成果 | 担当顧客の売上を前年の〇〇万円から〇〇万円に伸ばした(目標達成率〇〇%) |
| 効率化 | 毎月〇時間かかっていた集計作業を〇時間に減らした |
| 品質 | ミスの件数を前年の〇件から〇件に減らした |
| 役割の広がり | 新人〇人の指導を担当した、引き継ぎで担当顧客が〇社増えた |
| スキル・資格 | 〇〇の資格を取り、〇〇の業務を任されるようになった |
上司が人事への説明に使うこともあるため、誰が読んでも分かる書き方にします。
手順3:同じ職種・年齢の賃金水準を公的統計で調べる
世間の水準は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」で確かめられます。性別・年齢・企業規模・産業などの区分は令和7年調査の結果の概況、職種ごとの数字はe-Statの職種別の統計表に載っています。統計の月給(所定内給与額)は残業代や賞与を含まないため、自分の給与も残業代を除いた額で比べます。30代の平均給与と月給の中央値は30代が年収を上げる方法でまとめています。
前述の通り相場は決め手になりにくいので、希望額が無理のない範囲かを確かめる材料として使いましょう。
面談は直属の上司に相談の形で伝え、最後に結論の時期を確認する
準備ができたら、直属の上司に「処遇について相談したい」と伝えて時間を取ってもらいます。上司に決める権限がないことも多く、上司が人事や経営に説明してくれるかで結果が変わるため、要求ではなく相談の形で話すのが基本です。最後に「いつごろ結論が出るか」「次に何をすればよいか」を確認し、話した内容をメモに残しておきます。
昇給交渉の言い方と例文(口頭・メール)
角が立ちにくい話の順番と、口頭・メールの例文です。〇〇の部分は自分の状況に合わせて書き換えてください。
伝え方は「感謝→実績→希望→相談」の順にする
「感謝」「実績」「希望」「相談」の順で話すと、要求ではなく前向きな相談として受け止めてもらいやすくなります。
| 順番 | 伝える内容 | 話し方の例 |
|---|---|---|
| 1 感謝 | 時間を取ってもらったことへのお礼 | お時間をいただきありがとうございます |
| 2 実績 | 数字と事実で示した1年間の貢献 | 今期は〇〇の売上を前年比〇〇%に伸ばしました |
| 3 希望 | 昇給・昇格の希望と、その理由 | 役割に見合う処遇をご検討いただきたいです |
| 4 相談 | 足りない点と今後やるべきことを聞く | 足りない点があれば教えていただけますか |
最後に足りない点を聞いておけば、その場で決まらなくても次の評価に向けてやることが分かります。
口頭で切り出すときは、実績と希望をセットにして1〜2分で話す
お時間をいただきありがとうございます。今後の処遇について、ひとつご相談があります。
今期は担当の〇〇で、売上を前年の〇〇万円から〇〇万円に伸ばし、目標の〇〇%を達成できました。〇月からは新人〇名の指導も任せていただいています。
役割が広がった分、次の昇給や昇格で考えていただける余地はありますか。足りない点があれば、来期に何を頑張ればいいかも教えてください。
評価面談とは別に時間をもらうときは、「処遇のことでご相談があり、〇日か〇日に30分ほどお時間をいただけますか」と、目的と所要時間を先に伝えます。
メールは面談のお願いにとどめ、金額は面談で話す
メールやチャットでは、金額や細かい理由は書かず、「処遇について相談したい」という目的と候補日だけを伝えるのが無難です。文面だけで交渉すると、意図と違う受け取り方をされることがあります。
件名:今後の処遇についてご相談のお願い
〇〇部長
お疲れさまです。〇〇です。
今期の振り返りとあわせて、今後の処遇についてご相談したいことがあります。
30分ほどお時間をいただけないでしょうか。
候補日:〇月〇日(〇)〇時以降/〇月〇日(〇)終日
ご都合のよい日時を教えていただけると助かります。よろしくお願いいたします。
会社によっては、昇給の希望を所定の書面(自己申告書など)で出す決まりがあります。その場合は人事の案内に沿い、書面にも手順2で整理した実績を簡潔に書きます。
「給料を上げてほしい」は「処遇についてご相談させてください」と言い換える
直接的な言い方は要求の印象が強くなりがちです。「処遇」「評価」「昇給・昇格」という言葉で、検討をお願いする形にすると角が立ちにくくなります。
| 避けたい言い方 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 給料を上げてください | 今後の処遇についてご相談させてください |
| なぜ私の給料は上がらないんですか | 次の昇給・昇格に向けて、足りない点を教えていただけますか |
| 〇〇さんより給料が低いのは納得できません | 今の役割に見合う評価になっているか、確認していただけますか |
| 〇万円上げてもらえないと困ります | 月〇万円程度の昇給をご検討いただくことはできますか |
転職をちらつかせる・生活苦や同僚と比べる・上司を飛ばすのは避ける
「上げてくれないなら辞めます」と転職をちらつかせて迫るのは避けましょう。通ったとしても「いつ辞めるか分からない人」と見られやすく、引き止められずに退職の話が進むこともあります。実際にはない他社の提示額を持ち出すのも禁物です。
「生活が苦しい」「〇〇さんより低い」は評価基準と関係がないため根拠になりにくく、同僚の給料の話は人間関係にも響きます。直属の上司を飛ばして社長や人事に直談判するのも、評価を担う人との関係を悪くするおそれがあります。
いくら上げてと言うかの目安は月給の数%
統計は会社全体の平均で、個人の昇給額を約束するものではありません。物差しとして使ってください。
2025年の1人平均の賃上げは月1万3,601円(4.4%)。月給30万円なら約1万3,200円
厚生労働省の調査では、2025年中の1人平均賃金の改定額は月13,601円、改定率は4.4%(前年は11,961円・4.1%)でした。企業規模別では100〜299人が10,264円(3.6%)、5,000人以上が16,784円(5.1%)、労働組合のない企業は11,980円(4.0%)で、会社の規模などによって差があります。
※常用労働者100人以上の民間企業が対象。所定内賃金(残業代や賞与を含まない月給)の改定額で、常用労働者数による加重平均。引用:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(令和7年10月公表)
月給30万円の人の4.4%は約1万3,200円です。まず月給の数%を目安に考えると、無理のない金額を出しやすくなります。100人未満の会社は調査の対象外のため、小さな会社ではこれより低い水準になることもあります。規模別の一覧は年収を上げたい人がやるべきことで紹介しています。
希望額は「根拠のある額」と「最低ライン」の2つを決めておく
面談の前に、次の等級の給与の幅や統計の水準など、説明できる根拠がある希望額と、下回ったら評価の基準を確かめ直したり、ほかの選択肢を考えたりする最低ラインの2つを決めておきます。金額が決まらなくても、「次の評価で等級を上げる」「〇月の改定で見直す」といった条件と時期で合意できれば、次の交渉の土台になります。
月5,000円の昇給は年6万円。手取りの増え方はそれより少ない
月給の昇給額を12倍すると、年間の増加額の目安になります(賞与を除く)。
| 月給の昇給額 | 年間の増加額(賞与を除く) |
|---|---|
| 5,000円 | 60,000円 |
| 6,000円 | 72,000円 |
| 10,000円 | 120,000円 |
| 13,601円(2025年の平均) | 163,212円 |
ただし、昇給した分にも社会保険料と所得税・住民税がかかるため、手取りの増加は額面より少なくなります。たとえば厚生年金保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します。保険料は「標準報酬月額」で計算され、毎年9月の定時決定や大きな変動があったときの随時改定で見直されるため、昇給した月にすぐ変わるとは限りません(日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。
賞与を「基本給の〇か月分」で決める会社では、基本給が上がると賞与も増える可能性があります。額面と手取りの関係や、手取りを増やす方法は手取りを増やす方法で解説しています。
昇給交渉で断られたときの次の手
その場で希望が通らないことはよくあります。断られた後は次の3つを考えます。
「何ができれば上がるか」を具体的に聞き、次の面談日を決める
まず「どの成果を出せば次の昇給・昇格の対象になるか」を聞き、目標として上司とすり合わせます。「業績が厳しい」が理由なら、いつ見直しの機会があるかも確認します。次の面談や中間の振り返りの日程まで決めておくと、話が立ち消えになりにくくなります。
評価の材料が足りないなら、役割を広げ・スキルを身につける
担当範囲を広げたり、仕事に関わる資格を取ったりして、会社が評価する実績を増やす方法があります。今の仕事の延長では年収の上限が見えているなら、給与水準の高い職種に移るのも選択肢です。職種ごとの年収の目安は年収が高い仕事一覧と目指し方で、資格ごとの年収の目安は年収が高い資格ランキングで紹介しています。
基準を満たしても上がらないなら、転職で年収を比べてみる
基準を満たしても昇給しない、そもそも基準がない、業績が長く伸びていないといった場合は、社外での自分の評価を確かめるのも1つの方法です。ただし、転職すれば年収が上がるとは限りません。在職中に応募して提示年収を比べてから判断しましょう。進め方は転職で年収アップする方法で、内定後に提示年収を相談するやり方は転職の年収交渉のやり方で、年収が下がる転職を避ける考え方は転職で年収が下がる人の割合と対策で解説しています。
よくある質問
昇給を相談しただけでクビや評価ダウンになる心配は小さい
丁寧に相談しただけで、それを理由に不利に扱われることは一般的には考えにくいでしょう。法律上も、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とされています(労働契約法第16条・e-Gov法令検索「労働契約法」)。
それでも不当な扱いを受けたと感じたら、都道府県労働局などの総合労働相談コーナー(厚生労働省)で相談できます。個別のケースの判断は事情によって異なるため、心配なら早めに相談しましょう。
派遣社員は派遣会社に、アルバイト・パートは勤務先に相談できる
相談する相手は、自分を雇用している会社です。派遣社員を雇用しているのは派遣会社(派遣元)で、労働者派遣法でも、派遣元は派遣労働者の職務の内容や成果、能力、経験などを勘案して賃金を決めるよう努めることとされています(第30条の5)。派遣先での評価や業務の広がりを、派遣会社の担当者に伝えて相談しましょう。
アルバイト・パートは、雇用契約書や就業規則で昇給の有無と時期を確かめ、店長や直属の上司に相談します。任される業務が増えたといった事実が根拠になります。
【まとめ】昇給交渉はまず就業規則で昇給の基準を確かめよう
当記事のポイントは次の通りです。
- 定期昇給制度がある企業は81.2%で、その多く(72.4%)は業績評価などで昇給額が変わる
- 切り出すなら評価面談・目標設定の面談、賃金改定の前、業績が良い時期
- 伝え方は「感謝→実績→希望→相談」。メールは面談のお願いにとどめる
- 希望額は2025年の1人平均(月13,601円・4.4%)を参考に、根拠のある額と最低ラインを決める
- 断られたら「何ができれば上がるか」を聞き、上がらない状態が続くなら転職での年収も比べる
最初にやることは1つです。就業規則や賃金規程を開き、自分の会社で昇給が「いつ」「何で」決まるのかを確かめることから始めましょう。基準が分かれば、集めるべき実績と切り出す時期が決まります。今の会社で上がらないと分かったら、年収を上げる5つの方法から次の打ち手を選んでみてください。給料が安くて辞めることも考えているなら、給料が安いから辞めたいときの判断基準も参考になります。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、収入の増加や特定の結果を保証するものではありません。税金・社会保険・制度の内容は改正されることがあるため、最新情報は公的機関の公式サイトでご確認ください。本記事の情報は2026年10月時点のものです。

