「値上げばかりで、給料が増えた気がしない」と感じる人は少なくありません。給料の額が増えていても、物価の上がり方がそれより大きければ、買える物の量は減ります。物価上昇に負けないためには、まず自分の昇給率と物価上昇率を比べ、支出の見直しから収入を増やす対策へと順番に進めることが近道です。
当記事では、実質賃金の意味、毎月勤労統計調査と消費者物価指数の最新の数字、個人ができる対策とその優先順位を解説します。それぞれの対策の詳しいやり方は、関連する記事で紹介しています。
物価上昇で給料が上がらないとはどういうことか
ニュースで「実質賃金がマイナス」と聞いても、ピンとこない方も多いでしょう。ここでは、物価と給料の関係を表す実質賃金の考え方を、計算例とあわせて整理します。
給料の額が増えても、物価がそれ以上に上がれば買える量は減る
給与明細に書かれている金額そのものを「名目賃金」、物価の変化を差し引いて、その給料で実際にどれだけの物やサービスを買えるかを表したものを「実質賃金」といいます。
たとえば、月給が30万円から30万6,000円に増えても、スーパーの食料品や電気代がそれ以上に値上がりしていれば、同じ買い物をしたあとに残るお金は減ります。「物価は上がるのに給料が上がらない」という実感は、多くの場合、給料の額が減ったことではなく、この実質賃金が下がっていることを指しています。
実質賃金は「名目賃金÷物価」で計算する。3%の昇給でも物価が4%上がれば約1%の目減り
実質賃金の増減は、名目賃金の伸び率を物価の伸び率で割ると求められます。おおまかには「昇給率-物価上昇率」と考えても大きくは外れません。
| 昇給率(名目) | 物価上昇率 | 実質賃金の変化(目安) |
|---|---|---|
| 3% | 4% | 約1%の減少 |
| 3% | 2% | 約1%の増加 |
| 0%(据え置き) | 3% | 約3%の減少 |
※(1+昇給率)÷(1+物価上昇率)-1で計算し、小数点以下を丸めた目安です。
昇給がない年に物価が3%上がれば、給料は実質的に約3%目減りします。物価が上がっている時期は、「給料が下がっていないから大丈夫」ではなく、物価の上昇率以上に給料が伸びているかで考えることが大切です。
給料が物価に追いつきにくいのは、改定の時期と会社ごとの賃上げの余力に差があるから
物価は毎月のように動きますが、給料は年に1回の昇給の時期などにまとめて改定されることが多く、物価の上昇にすぐには追いつきません。また、原材料費などの値上がり分を販売価格に転嫁しにくい会社では、賃上げに回すお金を用意しにくくなります。
会社の規模や業界によって賃上げの幅に差が出る理由は、年収が上がらない理由と理由別の対処法で詳しく解説しています。
物価と給料の最新の統計(2026年10月時点)
実際に、給料と物価はどう動いているのでしょうか。ここでは、厚生労働省「毎月勤労統計調査」と総務省「消費者物価指数」の公表値をもとに、2026年10月18日時点で確認できる数字を紹介します。
2025年は名目賃金が2.3%増えた一方、実質賃金は1.3%減。マイナスは4年続いた
厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」によると、2025年の現金給与総額(1人平均・月額)は355,941円で、前年より2.3%増えました。一方、物価の動きを差し引いた実質賃金は1.3%の減少です。年単位で見ると、実質賃金は2022年から4年続けて前年を下回っています。
| 年 | 名目賃金 | 物価上昇率 | 実質賃金 |
|---|---|---|---|
| 2022年 | 2.0%増 | 3.0%上昇 | 1.0%減 |
| 2023年 | 1.2%増 | 3.8%上昇 | 2.5%減 |
| 2024年 | 2.8%増 | 3.2%上昇 | 0.3%減 |
| 2025年 | 2.3%増 | 3.7%上昇 | 1.3%減 |
※前年比。事業所規模5人以上、現金給与総額。物価上昇率は、実質賃金の計算に使う消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年比。引用:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」(2026年2月25日公表)
2025年の実質賃金指数は98.0(2020年平均=100)で、2020年の水準を下回っています。給料の額は毎年増えているのに暮らし向きが楽にならないと感じるのは、こうした数字にも表れています。
2025年の物価は2020年より約12%高く、食料は約26%高い
総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均」によると、2025年の総合指数は111.9(2020年=100)で、前年比3.2%の上昇でした。食料の指数は125.8で、前年比6.8%の上昇です。中でも米類などの穀類(21.9%上昇)の値上がりが目立ちました。
2026年に入ってから物価の伸びはやや落ち着いています。総務省「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)8月分」(2026年9月18日公表)では、総合指数の前年同月比は1.9%の上昇、食料は3.1%の上昇でした。伸びが落ち着いても、上がった価格が元に戻るわけではない点には注意が必要です。
なお、毎月勤労統計調査の表にある物価上昇率は、持ち家に住む人が家賃を払っているとみなした分(持家の帰属家賃)を除いて計算しているため、総務省の総合指数とは数字が少し異なります(2025年は総合3.2%、持家の帰属家賃を除く総合3.7%)。また、総務省の月ごとの発表は2026年7月分から、指数を100とする基準の年(基準年)が2020年から2025年に変わりました。
引用:総務省統計局「消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均」(2026年1月23日公表)、総務省統計局「消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)8月分」
2026年は1月から実質賃金のプラスが続いている。8月分速報は1.5%増
月ごとの数字を見ると、流れは変わりつつあります。厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年8月分結果速報」(2026年10月7日公表)によると、8月の現金給与総額は311,364円で前年同月比3.8%増、実質賃金は1.5%増で8か月連続のプラスでした。
| 2026年 | 名目賃金 | 物価上昇率 | 実質賃金 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 2.5%増 | 1.7%上昇 | 0.7%増 |
| 2月 | 3.4%増 | 1.4%上昇 | 2.0%増 |
| 3月 | 3.1%増 | 1.6%上昇 | 1.4%増 |
| 4月 | 3.6%増 | 1.5%上昇 | 2.0%増 |
| 5月 | 3.3%増 | 1.7%上昇 | 1.6%増 |
| 6月 | 4.0%増 | 1.9%上昇 | 2.2%増 |
| 7月 | 4.3%増 | 2.2%上昇 | 2.0%増 |
| 8月(速報) | 3.8%増 | 2.2%上昇 | 1.5%増 |
※前年同月比。事業所規模5人以上、現金給与総額。1〜7月は確報、8月は速報で、確報で改訂されることがあります。物価上昇率は、実質賃金の計算に使う消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年比。引用:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年8月分結果速報」(付表)
ただし、これは前年の同じ月と比べた伸びです。実質賃金は2022年から2025年まで4年続けて減っており、2026年のプラスは、その間に目減りした分をすべて取り戻したことを意味するものではありません。また、統計は働く人全体の平均であり、自分の給料が同じように増えているとは限りません。
自分の昇給率と物価上昇率を比べると、自分の実質賃金が上がったか分かる
統計の平均より大切なのは、自分の給料が物価に追いついているかです。源泉徴収票の「支払金額」を2年分並べて昇給率を出し、物価上昇率と比べると、自分の実質賃金の増減が分かります。
- 直近2年分の源泉徴収票(例:2024年分と2025年分)を用意し、「支払金額」(額面年収)を確認する
- (新しい年の支払金額÷前の年の支払金額-1)で昇給率を出す
- 同じ年の消費者物価指数の上昇率と比べる(2025年の総合は3.2%上昇)
たとえば、額面年収が450万円から459万円に増えた場合、昇給率は2.0%です。2025年の物価上昇率3.2%と比べると、実質的には約1.2%の目減りになります。参考として、厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」では、2025年中の1人平均賃金の改定率は4.4%(月13,601円)でした(常用労働者100人以上の企業、同調査の概況より)。
支払金額には残業代や賞与も含まれるため、残業が減った年は昇給率が低く出ます。基本給の動きは給与明細で確かめると正確です。
物価上昇で給料が上がらないときの対策
個人ができる対策は、収入を増やす側と、支出を減らす側に分けられます。それぞれ効果が出るまでの時間と注意点が違うため、まずは早見表で全体を確認してください。
| 対策 | 効く側 | 効果が出るまで | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 昇給交渉 | 収入 | 次の評価・昇給の時期 | 会社の制度と業績に左右される |
| 転職 | 収入 | 転職活動の期間 | 年収が下がる転職もある |
| 資格・スキル | 収入 | 学習期間を含め年単位 | 費用と時間がかかる |
| 副業 | 収入 | 人によって異なる | 就業規則・確定申告の確認 |
| 固定費の見直し | 支出 | 翌月の支払いから | 必要な保障まで削らない |
| 控除の活用 | 支出(税金) | 年末調整・確定申告の時期 | 対象になる条件を確認 |
※効果が出るまでの時間は傾向を示したもので、統計にもとづく期間ではありません。どの対策も収入や手取りの増加を保証するものではありません。
対策1:昇給交渉は「物価が上がったから」より「自分の成果と相場」を根拠にする
今の会社に大きな不満がないなら、昇給の相談から始められます。その際は、物価の上昇だけを理由にせず、担当した仕事の成果と、同じ職種・年代の給与水準を根拠にすると、会社側も判断しやすくなります。
物価の話は「生活が苦しい」という個人の事情と受け取られやすく、評価の基準とは結びつきにくいためです。評価面談の前に、1年間の成果を数字や事実で整理しておきましょう。伝え方や希望額の決め方は、昇給交渉のやり方と例文で解説しています。
対策2:会社の賃上げに期待できないなら、給与水準の高い会社への転職を検討する
業績が伸びていない、昇給の基準がないなど、会社の側に原因があるなら、給与水準の高い会社に移ることが、物価上昇を上回る伸びにつながる可能性があります。
ただし、転職すれば上がるとは限りません。厚生労働省「令和7年雇用動向調査」では、転職して前職より賃金が「増加」した人は40.8%、「減少」した人は31.0%でした(同調査の結果の概要より)。在職中に求人と提示年収を比べてから決めるのが基本です。進め方は転職で年収アップする方法で詳しく紹介しています。
対策3:資格・スキルは、資格手当や職種の変更につながるものを選ぶ
資格やスキルは、取るだけでは給料に反映されないことがあります。選ぶときは、今の会社の資格手当の対象になるか、年収の高い職種に移る条件になるかを基準にすると、給料に結びつけやすくなります。
効果が出るまで時間がかかるため、物価高への即効性はありません。中長期の対策として、支出の見直しと並行して進めるのが現実的です。職種別の年収の目安は年収が高い資格ランキングで確認できます。
対策4:本業がすぐに上がらないなら、副業で収入の柱を足す。就業規則と確定申告に注意
本業の給料がすぐには動かない場合、副業で本業以外の収入を足す方法もあります。会社の評価や昇給の時期に左右されない点がメリットです。
始める前に、勤務先の就業規則で副業が認められているかを確認してください。また、給与所得以外の所得が年20万円を超える場合などは、確定申告が必要になります(国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」)。公務員は法律で兼業が制限されています。始め方と注意点は会社員の副業の始め方で解説しています。
対策5:固定費は一度見直せば毎月効く。通信費とサブスクから確かめる
支出の側で最初に手をつけやすいのが、通信費・サブスク・保険などの固定費です。食費のように毎日我慢する節約と違い、一度契約を見直せば、翌月以降の支払いがずっと下がります。
物価上昇で食料などの値上がりが続く中、自分で金額を選べる固定費を下げておくと、家計の余裕を作りやすくなります。項目ごとのチェックシートは固定費削減の見直しリストにまとめています。
対策6:年末調整・確定申告の控除を漏れなく使い、手取りを守る
会社員でも、年末調整や確定申告で使える控除を漏れなく申告することで、所得税・住民税が減る場合があります。生命保険料控除の申告漏れや、医療費控除・ふるさと納税の手続きなどが代表例です。
額面の給料が同じでも、税金が減れば手元に残るお金は増えます。会社員が使える控除と効果の目安は会社員の節税一覧で確認してください。
物価上昇で給料が上がらないときの対策の優先順位
6つの対策を一度に始める必要はありません。すぐ効くものから順に進めると、無理なく続けられます。ここでは、おすすめの順番と状況別の選び方を紹介します。
1番目は固定費と控除の見直し。すぐ効き、ほかの対策の余力になる
最初に取り組みたいのは、固定費の見直しと控除の確認です。効果が早く、転職や副業のように結果が読めないリスクもありません。浮いたお金と時間は、資格の勉強や転職活動の準備に回せます。
2番目は今の会社で給料が上がる見込みを確かめる
次に、評価面談や賃金規程で、次にいつ、どのくらい上がる見込みがあるかを確かめます。前述の方法で出した昇給率が、物価上昇率を下回る年が続いているなら、昇給を相談するか、会社を変えるかを考える段階です。
上がる見込みが薄いなら転職を、時間が取れるなら副業と資格を並行する
今の会社で上がる道筋が見えないなら転職を検討し、本業の負担に余裕があるなら副業や資格の勉強を並行します。状況別の目安は次の通りです。
| 状況 | 先にやること | 並行して検討すること |
|---|---|---|
| 今月から家計が苦しい | 固定費・控除の見直し | 昇給の見込みの確認 |
| 昇給はあるが物価に届かない | 昇給の相談 | 転職市場での年収の確認 |
| 昇給の基準や見込みがない | 在職中の転職活動 | 固定費の見直し |
| 本業の時間に余裕がある | 副業・資格の勉強 | 就業規則・確定申告の確認 |
年収を上げる方法の全体像と、年代別の進め方は、年収を上げたい人がやるべきことで解説しています。
物価高で焦ったときに避けたい行動
物価が上がると、「早く何とかしなければ」と焦りやすくなります。ここでは、かえってお金を失うおそれがある行動を紹介します。
「簡単に収入を増やせる」とうたう高額な講座や副業の勧誘に注意する
「すぐに元が取れる」「スマホで簡単に稼げる」といった勧誘を見かけても、中身や解約条件が分からない高額な講座・教材は契約しないようにしてください。
国民生活センターは、AI講座やSNS運用講座などのビジネス講座に関する相談が増えているとして、注意を呼びかけています(2026年9月16日公表)。その場で契約を決めず、困ったときは消費者ホットライン「188」に相談しましょう。
借金で生活費や自己投資を補わない。勢いで退職もしない
足りない生活費や、資格・副業の準備費用を借金でまかなうのはおすすめできません。収入が増える前に返済が始まり、かえって家計が苦しくなるおそれがあります。
同じく、次の仕事を決めないまま退職すると、収入のない期間に焦って条件の合わない会社を選んでしまうことがあります。在職中に次の仕事の目処をつけてから動くと、条件を比べる余裕を持てます。
【まとめ】物価上昇で給料が上がらないときの対策は、自分の昇給率を確かめることから
当記事では、物価上昇で給料が上がらないときの考え方と対策を、厚生労働省と総務省の統計をもとにご紹介しました。ポイントは次の通りです。
- 実質賃金は、給料で実際にどれだけ買えるかを表す。昇給率が物価上昇率を下回れば目減りする
- 2025年は名目賃金2.3%増・実質賃金1.3%減で、実質のマイナスは4年連続(毎月勤労統計調査 確報)
- 2026年は1月から実質賃金のプラスが続き、8月分速報は1.5%増。ただし数年分の目減りを取り戻したとは言えない
- 対策は収入側(昇給交渉・転職・資格・副業)と支出側(固定費・控除)に分けられる
- 順番は、固定費と控除の見直し、今の会社での見込みの確認、転職や副業の検討
最初の一歩は、源泉徴収票を2年分並べて自分の昇給率を出し、物価上昇率と比べることです。物価に追いついていないと分かれば、まずは固定費の見直しから手をつけ、そのうえで昇給の相談や転職を考えると、打ち手を選びやすくなります。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、収入の増加や特定の結果を保証するものではありません。税金・社会保険・制度の内容は改正されることがあるため、最新情報は公的機関の公式サイトでご確認ください。本記事の情報は2026年10月時点のものです。

