転職で提示された年収に納得できないとき、「交渉したら印象が悪くなるのでは」とためらう人は少なくありません。転職の年収交渉は、内定後に条件が示されてから承諾するまでの間に、根拠をそろえて相談の形で伝えるのが基本です。
当記事では、内定取り消しの考え方、4つのタイミング、希望額の決め方、口頭とメールの例文を、厚生労働省の資料や公的統計をもとに解説します。
転職の年収交渉とは?交渉しても失礼にならないか
「失礼ではないか」「内定を取り消されないか」という不安について、考え方を整理します。
年収交渉は、提示された条件について希望と根拠を伝えて相談すること
転職の年収交渉とは、会社から示された年収について、自分の希望額とその理由を伝え、条件を見直せないか相談することです。中途採用の年収は経験や任される役割を踏まえて決まるため、提示額が必ず固定とは限りません。
根拠を添えて相談の形で伝えれば、それだけで失礼と受け取られるとは限りません。信頼を損ねやすいのは、根拠のない金額を一方的に求めたり、何度も条件を変えたりする伝え方です。なお、会社の給与の決まり(等級ごとの給与の幅など)や予算を超える金額は通りにくく、提示額のまま決まることもあります。転職でどのくらい年収が上がりやすいかは、転職で年収アップする方法で整理しています。
内定後の交渉で取り消されるかは、内定の法的な扱いから考える
厚生労働省の解説では、採用内定は多くの場合、入社日(始期)と、一定の事由があれば解約できる権利(解約権)が付いた労働契約がすでに成立した状態と考えられています。この場合、会社からの内定取り消しは解雇にあたり、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められなければ無効です。
判例でも、内定を取り消せるのは、内定のときに知ることができなかった事実で、取り消すことが客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られるとされています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。厚生労働省は取消事由の例として、条件や資格の要件を満たさないとき、健康状態の悪化、重要な経歴詐称などを挙げています。
ただし、内定の法的な性格は事案によって異なり、最終的な判断は裁判所が個別に行います。また、内定が出る前の面接の段階では、希望額と会社の予算が合わないことが不採用の理由になることもあります。内定通知書や承諾書の扱いが分からないときは、会社や転職エージェントの担当者に確かめておきましょう。内定取り消しへの不安と失敗しない進め方は年収交渉で内定取り消しになるかの解説でまとめています。
※根拠:厚生労働省「確かめよう労働条件」採用の内定・内々定について、取消や辞退する場合の注意点、同 裁判例「採用内定の取消」、労働契約法(e-Gov法令検索)第16条
年収交渉のタイミングは4つ
年収の話が出る場面は、応募から内定承諾までに大きく4つあります。
| タイミング | 主にやること | 金額の話の深さ |
|---|---|---|
| 応募書類 | 現年収と希望額を正確に書く | 目安を伝える |
| 面接 | 聞かれたら幅で答え、根拠を一言添える | 目安を伝える |
| オファー面談 | 提示条件の内訳を確認し、希望額を相談する | 具体的に交渉する |
| 内定承諾の前 | 交渉の結果を書面で確認して返事をする | 最終確認 |
※一般的な流れの整理で、法律で決まった順番ではありません。
タイミング1:応募書類の希望年収欄は、現年収と希望額を分けて正確に書く
応募書類に希望年収の欄があるときは、現在の年収(額面)と希望額を分けて、正確に書きます。手取りを書くと実際より低く受け取られます。額面と手取りの違いは、手取りを増やす方法で解説しています。
希望額を低く書きすぎると、その金額が後の提示の基準になりやすくなります。「希望年収〇〇万円以上(経験を踏まえてご相談させてください)」のように、下限と相談の余地を示す書き方もあります。
タイミング2:面接で聞かれたら、幅で答えて根拠を一言添える
面接で希望年収を聞かれたら、「〇〇万円から〇〇万円」と幅で答え、その金額を考えた理由を一言添えます。面接はまだ評価の途中なので、金額より経験や実績を伝えることを優先します。
例えば「現在の年収は〇〇万円です。〇〇の経験を活かせると考え、〇〇万円から〇〇万円を希望しています」と答えます。「いくらでも構いません」と答えると、低めの提示になったときに交渉の根拠を示しにくくなります。
タイミング3:内定後のオファー面談が、具体的に交渉する場になる
内定後に、年収や入社日などの条件を説明する「オファー面談」(条件面談)を設ける会社もあります。具体的な年収交渉は、条件が示されたこの段階で行うのが基本です。
年収の内訳(月給・賞与・残業代・手当)、等級、昇給の時期を確認すると、何を相談すべきかがはっきりします。「一度持ち帰って検討させてください」と伝え、あとからメールで相談しても構いません。
タイミング4:内定を承諾する前が最後の機会。承諾後の交渉は難しくなる
年収の相談は、内定承諾の返事をする前に済ませるのが基本です。承諾したあとに条件を持ち出すと、合意した内容を変えることになり、受け入れられにくくなります。
回答期限が決められている場合は、期限内に「条件について1点ご相談したい」と早めに伝えておきます。期限を過ぎてから条件を持ち出すと、印象を悪くするおそれがあります。
希望年収の決め方
希望額は、根拠を説明できる金額にします。
現年収は、源泉徴収票の支払金額と給与の内訳まで把握する
まず、源泉徴収票の「支払金額」で、税金や社会保険料が引かれる前の額面年収を確かめましょう。あわせて給与明細から1年分の内訳を書き出しておくと、提示額と正しく比べられます。
| 内訳 | 確認すること |
|---|---|
| 基本給 | 月額と、等級・役職による決まり方 |
| 残業代 | 年間でいくらあったか(固定残業代かどうか) |
| 賞与 | 年何回・何か月分か、業績でどのくらい変わるか |
| 手当 | 住宅手当・家族手当・資格手当などの月額 |
残業代が多かった人は、月給が上がっても年収が増えないことがあります。
相場は、求人の想定年収と公的統計で確かめる。1割以上増えた人は28.2%
相場の手がかりは、応募先と同じ職種・同じ程度の経験を求める求人の想定年収の幅です。いくら上乗せするかに決まった目安はないため、複数の求人で提示されやすい範囲をつかみます。
転職全体での上がり幅は、公的統計で確かめられます。厚生労働省「令和7年雇用動向調査」によると、転職した人のうち前職より賃金が1割以上増えた人は28.2%でした。一方で、賃金が減った人も31.0%います。年代別・業種別の上がり幅は転職の年収アップ相場で詳しく解説しています。
| 前職と比べた賃金 | 割合 |
|---|---|
| 1割以上の増加 | 28.2% |
| 1割未満の増加 | 12.6% |
| 変わらない | 25.5% |
| 減少 | 31.0% |
※令和7(2025)年1年間の転職入職者(前職が雇用者の人)。賃金変動の不詳を含むため、合計は100%になりません。引用:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(令和8年8月公表)
年齢・産業・役職ごとの賃金水準は「令和7年賃金構造基本統計調査」で、職種ごとの目安は年収が高い仕事一覧で確認できます。
「希望額」と「これ以上は下げられない下限」の2つを決めておく
交渉の前に、「希望額」と「これ以上は下げられない下限」の2つの金額を決めておきます。下限があれば、提示額を受け入れるか、交渉を続けるか、辞退するかを迷わずに判断できます。
| 金額 | 決め方 | 例(現年収500万円の場合) |
|---|---|---|
| 希望額 | 現年収+経験・求人の相場から根拠を説明できる額 | 550万円(1割増) |
| 下限 | 生活費・住宅費などの支払いから逆算した額 | 480万円 |
金額は考え方を示す例で、希望額が通るとは限りません。希望額は求人の想定年収の上限を大きく超えない範囲にし、提示年収に賞与が含まれる場合は、賞与が減っても下限を下回らないかを確かめます。
年収交渉の伝え方と例文(口頭・メール)
伝える順番と、口頭・メールの例文です。
伝える順番は「お礼→現年収→根拠→希望額→相談」
年収交渉では、お礼、現年収、根拠、希望額の順に伝え、最後に「ご検討いただけますか」と相談の形で締めると角が立ちにくくなります。
- お礼:内定や条件の提示へのお礼
- 現年収:賞与を含む額面の年収(源泉徴収票の数字)
- 根拠:経験・実績・求人の相場など、その金額を払う理由
- 希望額:具体的な金額を1つ(または幅)で
- 相談:「ご検討いただくことは可能でしょうか」と判断を委ねる
家計の事情だけでは会社は判断しにくいため、入社後にどう貢献できるかと結びつけます。
オファー面談で口頭で伝えるときは、短く結論から話す
口頭では、長い前置きをせず、現年収と希望額、その理由を短くまとめて話すと伝わりやすくなります。
オファー面談で伝える例文
本日はご説明いただき、ありがとうございます。条件について1点ご相談させてください。
現在の年収は、賞与を含めた額面で〇〇万円です。これまで〇〇の業務で〇〇の実績があり、御社の〇〇のポジションでも活かせると考えております。
そこで、年収〇〇万円をご検討いただくことは可能でしょうか。難しい場合は、等級や賞与の考え方を伺えればと思います。
その場で回答が出ないことも多いため、いつ頃返事をもらえそうかも確認しておきます。
メールで伝えるときは、件名で用件が分かるようにする
メールでは、件名で「条件のご相談」と分かるようにし、本文は口頭と同じ順番でまとめます。書き言葉なので、相手の会社は「御社」ではなく「貴社」と書きます。
メールで伝える例文
件名:内定条件についてのご相談(氏名)
株式会社〇〇 人事部 〇〇様
このたびは内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございます。ご提示いただいた条件について、1点ご相談したくご連絡いたしました。
現在の年収は、賞与を含めた額面で〇〇万円です。前職では〇〇の業務を担当し、〇〇の実績を上げてまいりました。貴社の〇〇のポジションでも、この経験を活かして貢献できると考えております。
つきましては、年収〇〇万円でご検討いただくことは可能でしょうか。難しい場合は、ご提示の金額の考え方をお聞かせいただけますと幸いです。
内定承諾のお返事は、ご指定の〇月〇日までにいたします。お忙しいところ恐縮ですが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
話し合いで合意した内容は、最終的に書面で受け取ります。提示額が低いときや他社の選考がある場合など、ケース別の文例は年収交渉のメール例文で紹介しています。
転職エージェント経由で交渉するときのポイント
転職エージェントを通して応募している場合は、年収交渉を担当者に任せる方法もあります。
エージェント経由なら、希望額と根拠を担当者に伝えて交渉を任せられる
転職エージェントを使っている場合は、希望額と根拠を担当者に伝え、企業との条件交渉を代わりに進めてもらえることがあります。言い出しにくい金額の話を第三者から伝えてもらえます。
転職エージェントは厚生労働大臣の許可を受けた「有料職業紹介事業」にあたり、職業安定法第32条の3第2項で、求職者から原則として手数料を取ってはならないと定められています。(根拠:職業安定法(e-Gov法令検索)第30条・第32条の3)
任せきりにせず、希望額・下限・優先順位は自分で決めて伝える
任せる場合も、希望額・下限・年収以外で優先したい条件は、自分で決めて担当者に伝えます。
「この金額なら決まりそうです」と勧められても、受け入れるかどうかは自分で判断します。結果は担当者からの連絡だけでなく、企業が出す労働条件通知書などの書面で確かめましょう。
交渉でやってはいけないこと
かえって信頼や内定を失うおそれがある行動は3つです。
現年収を盛るのはやめる。入社後に前職の源泉徴収票で分かることがある
希望額を高めに伝えるのは交渉の範囲ですが、現年収を実際より高く伝えるのはやめましょう。年の途中で入社した人は、年末調整のために、前の会社の源泉徴収票を新しい会社に出すのが一般的です。国税庁も、中途就職者の年末調整は前の会社の給与を含めて行い、源泉徴収票などで確認するとしています(国税庁 No.2674 中途就職者の年末調整・令和8年4月1日現在法令等)。
また厚生労働省は、内定の取消事由の例の1つに「重要な経歴詐称」を挙げています。どの程度の食い違いが問題になるかは個別の事情によりますが、伝える金額は源泉徴収票の数字にそろえておくのが安全です。
ない他社の内定や提示額を持ち出さない
他社から実際により高い提示を受けているなら、その事実は交渉の根拠になります。ただし、受けていない内定や、実際より高い提示額を伝えるのは避けましょう。
「それならその会社に決めては」と言われれば引き返せません。伝えるなら「他社から〇〇万円の提示をいただいていますが、御社で働きたいと考えています」のように、志望度とあわせて正直に話します。
承諾後に条件を持ち出したり、何度も金額を変えたりしない
前述の通り、年収の相談は回答期限内、承諾する前に行うのが基本です。何度も金額を変えたり、「この金額でなければ辞退します」と強い言い方を繰り返したりすると、入社後の関係にも響きかねません。相談は1回で伝わるよう、希望額と根拠をまとめてから伝えます。
交渉がうまくいかないときの選択肢
交渉しても、希望額が通らないことはあります。提示額が変わらなかったときの選択肢は3つです。
年収が据え置きでも、入社後の昇給の基準と時期を確認しておく
提示額が変わらなくても、入社後に年収が上がる道筋(昇給の時期・評価の基準・次の等級の年収)が分かれば、受け入れるかを判断しやすくなります。「最初の評価はいつか」「前年の昇給実績はどのくらいか」を聞いておきましょう。入社後に年収を上げる考え方は年収を上げたい人がやるべきことで、入社後に昇給を相談する進め方は昇給交渉のやり方で整理しています。
年収以外の条件(等級・手当・入社日など)で調整できないか相談する
基本給は動かせなくても、年収以外の条件なら調整できる場合があります。
- 採用される等級・役職(次の昇給の基準が変わる)
- 住宅手当・資格手当などの手当
- 入社日(今の会社の賞与を受け取ってから移れる時期にする 等)
- 初年度の賞与の扱い
- リモートワーク・勤務地などの働き方
何でも求めるのではなく、優先度の高いものを1〜2つに絞って相談するほうが受け入れられやすくなります。
下限を下回るなら辞退も選択肢。辞退は早めに丁寧に伝える
提示額が下限を下回り、他の条件でも補えない場合は、内定を辞退して転職活動を続けることも選択肢です。在職中なら、今の会社に残る判断もできます。年収が下がる転職をどこまで受け入れるかは、転職で年収が下がるときの許容範囲の考え方も参考にしてください。
厚生労働省の解説では、内定者からの辞退は基本的に問題ないものの、あまりに信義則に反するような場合は損害賠償を求められる可能性もあり得るとされています。辞退を決めたら、期限を待たずに早めに、お礼とあわせて伝えましょう。
原因が業界や職種の給与水準にあるなら、年収が上がらない理由と理由別の対処法を参考に応募先から見直す方法もあります。
入社前に労働条件通知書で確認すること
交渉がまとまったら、口頭の約束だけで判断せず、書面で条件を確かめます。
交渉で決まった年収が、書面の賃金欄に反映されているか確かめる
労働基準法第15条では、会社は労働契約を結ぶときに賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならないと定めています。交渉で決まった金額が、労働条件通知書などの賃金欄に反映されているかを入社前に確かめましょう。
注意したいのは、書面での明示が義務づけられている賃金に、賞与が含まれていない点です(労働基準法施行規則第5条)。賞与の月数や初年度の扱いは、メールなど記録に残る形で確認しておきます。
※根拠:労働基準法(e-Gov法令検索)第15条、労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)第5条
求人票などで示された条件を変えるなら、会社は変更内容を明示する必要がある
職業安定法第5条の3第3項では、求人や募集のときに示した労働条件を、労働契約を結ぶ際に変更する場合などに、会社は変更する内容を求職者に明示しなければならないと定めています。求人票と違うときは、なぜ違うのかを会社に確認します(ハローワークの求人ならハローワークにも申し出られます)。
※根拠:職業安定法(e-Gov法令検索)第5条の3、厚生労働省「確かめよう労働条件」求人票や求人広告に記載された条件が、実際の条件と違った場合の対処法
固定残業代・試用期間中の賃金・就業場所と業務の変更の範囲も見ておく
その年収がどんな条件で支払われるのかも見ておきます。
| 確認する項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 固定残業代 | 月給に何時間分・いくらが含まれ、超えた分は別に支払われるか |
| 試用期間 | 期間の長さと、期間中の賃金が本採用後と同じか |
| 就業場所・業務の変更の範囲 | 将来の転勤や配置転換がどこまであり得るか |
就業場所と業務の「変更の範囲」は、令和6年4月から、募集時と労働契約を結ぶときの両方で明示が必要な事項に加わりました。
※根拠:厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」、労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3
【まとめ】転職の年収交渉は内定後に根拠をそろえて相談しよう
転職時の年収交渉のポイントは次の通りです。
- 根拠を添えて相談の形で伝えれば、それだけで失礼とは限らない
- 内定は多くの場合、労働契約が成立した状態と考えられ、取り消しには合理的な理由が必要(判断は個別)
- 具体的な交渉は、内定後のオファー面談から承諾の返事をするまでの間に行う
- 希望額は現年収と求人の相場を根拠にし、下限も決めておく
- 現年収を盛る・ない内定を持ち出すのは避け、決まった条件は労働条件通知書で確かめる
最初にやることは、源泉徴収票と給与明細を手元に用意し、現年収を額面と内訳まで書き出すことです。転職全体の進め方は、転職で年収アップする方法もあわせて参考にしてみてください。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、収入の増加や特定の結果を保証するものではありません。税金・社会保険・制度の内容は改正されることがあるため、最新情報は公的機関の公式サイトでご確認ください。本記事の情報は2026年10月時点のものです。

