MENU

年収交渉で内定取り消しになる?法的な考え方と失敗しない進め方

当ページのリンクには広告が含まれています。
年収交渉で内定取り消しになる?法的な考え方と失敗しない進め方

「年収交渉をしたら内定を取り消されるのでは」と不安になり、提示額のまま承諾するか迷う人は少なくありません。内定で労働契約が成立している場合、会社からの取り消しには解雇と同じく合理的な理由が必要とされ、厚生労働省が示す取消事由の例にも「条件の相談」は含まれていません。ただし、伝え方を誤ると条件が折り合わなかったり、信頼を失ったりすることはあります。

当記事では、内定取り消しの法的な考え方、取り消しや印象の悪化を招きやすい交渉の仕方、失敗しない進め方を、厚生労働省の解説と法令をもとに解説します。あわせて、取り消されたときの相談先も整理します。

目次

年収交渉で内定取り消しになる?内定の法的な考え方

年収交渉で内定が取り消されるかを考えるには、まず「内定とはどういう状態か」を知っておく必要があります。ここでは厚生労働省の解説と労働契約法をもとに整理します。なお、ここで紹介するのは一般的な考え方で、個別の事案について法的な判断を示すものではありません。

内定は「入社日と解約の条件が付いた労働契約」が成立した状態と考えられることが多い

厚生労働省の解説では、採用内定通知のほかに労働契約を結ぶための手続きが予定されていない場合、採用内定によって「始期付解約権留保付労働契約」が成立したと認められることが多いとされています。「始期付」は入社日が決まっていること、「解約権留保」は内定通知書や誓約書に書かれた取消事由が生じたときに解約できる権利を会社が残していることを指します。

つまり、入社日を待っている状態の労働契約が、内定の時点ですでに結ばれていると考えられるケースが多いということです。労働契約法第6条も、労働契約は、働くことと賃金を支払うことについて労働者と使用者が合意することで成立すると定めています。

ただし、厚生労働省は採用内定の法的な性格は事案によって異なるとしています。内定通知のあとに承諾書の提出や条件の確認などの手続きが予定されているかどうかで、扱いが変わることがあります。

労働契約が成立していれば、取り消しには解雇と同じく合理的な理由が必要

内定によって労働契約が成立している場合、会社からの内定取り消しは解雇にあたります。そのため、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない取り消しは、権利の濫用として無効になります。

判例では、取り消しが認められるのは、内定のときに知ることができず、知ることも期待できなかった事実があり、それを理由に取り消すことが客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られるとされています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日第二小法廷判決)。

厚生労働省は、内定を取り消された側は「その理由を開示してもらう必要があります」と説明しています。労働契約が成立している内定の取り消しには、解雇としての合理的な理由が必要とされるためです。

厚労省が挙げる取消事由の例に「条件の相談」は含まれていない。ただし判断は個別

厚生労働省が示している内定の取消事由の例と、年収交渉との関係を整理すると次の通りです。

厚労省が挙げる取消事由の例年収交渉で気をつけたいこと
契約の前提となる条件や資格の要件を満たさない交渉との直接の関係は薄い
健康状態の悪化交渉との直接の関係は薄い
重要な経歴詐称現年収などを偽ると、これにあたると受け取られるおそれがある
重要な必要書類を提出しない求められた書類は期限内に出す
その他の不適格事由何があたるかは事案ごとに判断される
経営状況の悪化交渉とは別の理由。整理解雇に準じて判断されると考えられている

※左の列は厚生労働省の解説にある例。右の列は当編集部による整理です。引用:厚生労働省「確かめよう労働条件」採用の内定・内々定について、取消や辞退する場合の注意点

根拠を示して条件を相談すること自体は、ここで例として挙げられているものには含まれていません。労働契約法第3条も、労働契約は労働者と使用者が対等の立場での合意にもとづいて結び、変更するものと定めています。一方で、交渉の中で事実と違うことを伝えると「重要な経歴詐称」などを理由にされるおそれがある点には注意が必要です。取り消しが有効かどうかは、最終的には裁判所が個別の事情をもとに判断します。

内々定や条件の合意前の段階では、労働契約が成立していないと判断されることもある

厚生労働省の解説では、内々定は、内定に比べて多くの場合、労働契約を結んだという認識には至っていないと考えられています。そのため、内々定の取り消しは解雇ではないとも考えられます。ただし、拘束の度合いが強ければ内定と認められることや、労働契約が成立していなくても、相手の期待を裏切ったとして損害賠償が認められることもあり得るとされています。

中途採用では、内定の連絡と同時に条件が示され、承諾の返事をもって入社が決まる流れの会社もあります。条件の合意がまだの段階で希望額と会社の予算が折り合わなければ、会社が採用を見送ることは考えられます。この場合の法的な扱いは、内定の通知や承諾の手続きなど、それまでのやり取りによって異なり、一概には言えません。今の段階が内々定なのか内定なのか分からないときは、採用担当者や転職エージェントの担当者に確かめておくと安心です。

※根拠:厚生労働省「確かめよう労働条件」採用の内定・内々定について、取消や辞退する場合の注意点、同 裁判例「採用内定の取消」、労働契約法(e-Gov法令検索)第3条・第6条・第16条(2026年10月時点)

内定取り消しや印象の悪化を招きやすい年収交渉の仕方

法律上、取り消しが制限される場合でも、交渉の仕方によっては会社との信頼関係が崩れたり、条件が折り合わずに話がまとまらなかったりすることがあります。ここでは、避けたい4つの伝え方を紹介します。

現年収を実際より高く伝えると、経歴詐称と受け取られるおそれがある

現年収を実際より高く伝えるのは、最も避けたい行動です。前述の通り、厚生労働省は内定の取消事由の例に「重要な経歴詐称」を挙げています。どの程度の食い違いが「重要」とされるかは個別の事情によりますが、偽った金額をもとに提示額が決まると、あとで問題になりやすくなります。

金額は入社後に分かることがあります。国税庁の説明では、年の途中で就職した人の年末調整は、その年に前の会社から受け取った給与も含めて行い、前の会社が発行した「給与所得の源泉徴収票」などで金額を確かめます(国税庁 No.2674 中途就職者の年末調整・令和8年4月1日現在法令等)。

すでに多めに伝えてしまった場合は、承諾の返事をする前に正しい金額を伝え直すほうが、あとで分かるより影響を小さくできる可能性があります。現年収は、源泉徴収票の「支払金額」(賞与を含む、税金や社会保険料が引かれる前の総額)で伝えるのが正確です。

ない他社の内定や、実際より高い提示額を持ち出す

他社から実際に内定や条件の提示を受けているなら、その事実は交渉の材料になります。ただし、受けていない内定や、実際より高い提示額を伝えるのは避けるべきです。確認を求められたときに説明できず、信頼を大きく損ないます。

事実と違う説明をしたことが分かれば、会社が採用の判断そのものを見直すきっかけにもなりかねません。他社の選考状況を伝えるときの書き方は、年収交渉のメール例文でケース別に紹介しています。

「この金額でなければ辞退します」と最後通告のように迫る

年収交渉は「相談」の形で伝えるのが基本です。「〇〇万円でなければ辞退します」と条件を突きつける言い方は、会社に交渉の余地がないと受け取られやすく、話し合いが打ち切られる原因になります。会社には給与テーブル(等級ごとの給与の範囲)や採用の予算があり、担当者がその場で決められないこともあります。

「〇〇万円でご検討いただくことは可能でしょうか」と相談の形で伝え、難しい場合の代わりの案(等級・手当・入社日など)も聞けるようにしておくと、話がまとまりやすくなります。下限を下回ったら辞退するという判断は、自分の中で決めておけば十分です。

承諾したあとに蒸し返したり、回答期限を過ぎたりする

内定を承諾したあとに年収の話を持ち出すのは避けるのが無難です。承諾の返事をした時点で、その条件で合意したと受け取られやすく、見直しを頼んでも受け入れられにくくなります。交渉は、条件の提示を受けてから承諾の返事をするまでの間に1回にまとめるのが基本です。

回答期限を過ぎても返事をしない、何度も希望額を変えるといった対応も、入社後の働き方への不安につながります。期限内に結論を出せないときは、期限の前に延長を相談します。応募から承諾までのどの場面で年収の話をするかは、転職の年収交渉のやり方で4つのタイミングに分けて解説しています。

年収交渉で失敗・後悔しないための進め方

取り消しや後悔を防ぐには、交渉の中身だけでなく、交渉の前後に何を確かめるかが大切です。ここでは、内定の連絡を受けてから入社を決めるまでを4つの手順で紹介します。転職活動全体の流れは転職で年収アップする方法で解説しています。

手順1:内定通知書で、内定の扱いと回答期限を確かめる

最初に、内定通知書やメールで「承諾書の提出などの手続きが残っているか」「承諾の回答期限はいつか」を確かめます。条件面談(オファー面談)が予定されているかどうかも含めて、交渉できる期間がここで決まるためです。

提示された年収が月給・賞与・手当のどの組み合わせなのか、固定残業代が含まれているかも、このときに確認しておきます。内訳が分からないままでは、今の年収と正しく比べられず、交渉の根拠も作れません。分からない点は、採用担当者か転職エージェントの担当者に質問して構いません。

手順2:希望額の根拠と、下回ったら辞退する下限を決めておく

交渉の前に、「希望額」と「これを下回るなら辞退する下限」の2つを決めておきます。下限が決まっていれば、提示額を聞いて慌てることがなく、最後通告のような言い方をしなくても落ち着いて判断できます。下限を下回って辞退する場合は、回答期限を待たずに早めに伝えます。厚生労働省の解説では、内定者からの辞退は基本的に問題ないものの、あまりに信義則に反するような場合は損害賠償を求められる可能性もあり得るとされています。

希望額の根拠には、現年収(源泉徴収票の支払金額)、求人票に書かれた想定年収の幅、これまでの経験が入社後の仕事にどう役立つかを使います。転職で年収がどのくらい上がっているかの目安は、転職の年収アップ相場で公的統計をもとに紹介しています。

手順3:承諾の返事をする前に、相談の形で1回にまとめて伝える

希望は、承諾の返事をする前に、お礼・現年収・根拠・希望額の順で、1回にまとめて伝えるのが基本です。条件を小出しにしたり、あとから何度も足したりすると、会社が社内で検討しにくくなります。

伝える相手は、これまでやり取りしてきた採用担当者です。転職エージェントを通して応募している場合は、エージェントの担当者に希望額と下限を伝えて交渉を任せる方法もあります。口頭で伝えたときも、伝えた内容をメールで残しておくと、あとで「言った・言わない」の食い違いが起きにくくなります。

手順4:合意した条件を書面で確かめるまで、今の会社に退職を伝えない

交渉で決まった年収は、労働条件通知書などの書面で受け取り、金額が反映されているかを確かめてから入社を決めます。労働基準法第15条では、会社は労働契約を結ぶときに賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならないと定めています(労働基準法(e-Gov法令検索))。賃金の決定・計算・支払いの方法などは書面での明示が原則ですが(労働基準法施行規則第5条)、本人が希望すれば電子メールなどで受け取ることもできます。

今の会社への退職の申し出は、書面で条件を確かめてからにするのが安全です。万が一内定が取り消されても、在職中であれば収入が途切れず、次の行動を落ち着いて考えられます。

年収交渉のあと内定を取り消されたときの対応と相談先

交渉のあとに内定を取り消された、あるいは取り消しをほのめかされた場合は、すぐに反論するより先に、事実を確かめて記録を残すことが大切です。ここでは、取り消されたときに取る行動と相談先を紹介します。

まず取り消しの理由を、メールや書面で示してもらう

最初に、なぜ内定を取り消すのか、理由をメールや書面で示してもらうよう依頼します。前述の通り、厚生労働省は、労働契約が成立している内定の取り消しには解雇としての合理的な理由が必要で、取り消された側は理由を開示してもらう必要があると説明しています。

電話で伝えられた場合も、「確認のため、取り消しの理由と日付をメールでお送りいただけますか」と頼んでおけば、あとで相談するときの材料になります。誤解から生じた取り消しであれば、この段階のやり取りで見直してもらえる可能性もあります。

内定通知書・承諾書・交渉のやり取りを保存しておく

相談するときは、内定がいつ、どのような形で出され、交渉で何を伝えたかを時系列で説明できると、話が進みやすくなります。次のものは削除せずに保存しておきます。

  • 内定通知書・労働条件通知書・内定承諾書の控え
  • 採用担当者や転職エージェントとのメール・メッセージ
  • オファー面談などの日時と、話した内容のメモ
  • 取り消しの連絡の日時・相手・伝えられた理由

相談先は総合労働相談コーナー。無料・予約不要で、解決の手続きも案内してもらえる

公的な相談先として、都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などに設けられた「総合労働相談コーナー」があります。厚生労働省によると、解雇や募集・採用を含むあらゆる分野の労働問題を対象に、専門の相談員が面談か電話で対応し、予約不要・無料で利用できます(設置数は378か所。厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」より・2026年10月時点)。

相談先できること
総合労働相談コーナー法令・裁判例の情報提供と相談。都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせん(いずれも無料)の案内
労働基準監督署労働基準法などに違反する疑いがある場合の対応(相談コーナーから取り次がれることもある)
法テラス・弁護士取り消しの有効性を争うなど、法的な手続きを検討するときの相談

※引用:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」、同「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」(2026年10月時点)

なお、厚生労働省は、解雇に関する紛争は助言・指導とあっせんの両方の対象とする一方、募集・採用に関する紛争は助言・指導の対象にはなるものの、あっせんの対象にはならないとしています。どちらにあたる場合でも、相談や助言・指導は受けられます。内定取り消しであっせんまで使えるかは、内定の状況を伝えたうえで相談コーナーで確かめてください。

争うか次の転職先を探すかは、相談したうえで自分で決める

取り消しが無効と考えられる場合でも、争うには時間と労力がかかります。取り消しの有効性を争うか、話し合いで区切りをつけて次の転職先を探すかは、相談先で見通しを聞いたうえで決めるのが現実的です。

在職中であれば、今の会社に残って昇給を目指す道もあります。今の会社で年収を上げる進め方は昇給交渉のやり方で解説しています。転職先を探し直すときは、前述の手順を見直してから次の交渉に臨むと、同じ失敗を繰り返しにくくなります。

【まとめ】年収交渉で内定取り消しを防ぐには承諾前に事実にもとづいて相談しよう

当記事では、年収交渉で内定取り消しになるのかを、厚生労働省の解説と法令をもとにご紹介しました。ポイントは次の通りです。

  • 内定通知のほかに契約の手続きが予定されていない場合、内定で労働契約が成立したと認められることが多い(法的な性格は事案によって異なる)
  • 労働契約が成立していれば、取り消しには労働契約法第16条にもとづく合理的な理由が必要。厚労省が挙げる取消事由の例に条件の相談は含まれない
  • 現年収を盛る、ない内定を持ち出す、最後通告、承諾後の蒸し返しは、取り消しや信頼の低下を招きやすい
  • 承諾前に1回にまとめて相談し、合意した条件を書面で確かめてから今の会社に退職を伝える
  • 取り消されたら理由を書面で求め、記録を残して総合労働相談コーナーに相談する

交渉をしても内定が守られると言い切れるわけではありませんが、事実にもとづいて丁寧に相談すれば、不要なリスクは減らせます。まずは手元の内定通知書やメールを読み直し、承諾の回答期限と、承諾書の提出などの手続きが残っているかを確かめることから始めてください。期限と手続きが分かれば、交渉できる期間と伝える順番を決めやすくなります。年収を上げる方法の全体像は年収を上げたい人がやるべきことでまとめています。

記事の情報について

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、収入の増加や特定の結果を保証するものではありません。税金・社会保険・制度の内容は改正されることがあるため、最新情報は公的機関の公式サイトでご確認ください。本記事の情報は2026年10月時点のものです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年収上げたい.com を運営する編集部です。年収を上げたい人に向けて、国税庁・厚生労働省などの公的な統計や制度の一次情報をもとに、今の会社で上げる・転職・スキルと資格・副業・支出の見直しといった打ち手をわかりやすく解説しています。記事は公開前に数字と制度を一次情報で確認し、結果を保証するような表現はしない方針です。

目次