「控除を使えば手取りが増える」と聞いても、どの控除が自分に使えて、いくら減るのかは分かりにくいものです。会社員が手取りを増やすには、年末調整で出す控除と確定申告が必要な控除を分けて、条件に当てはまるものを漏れなく申告することが基本です。
当記事では、生命保険料控除・地震保険料控除・iDeCoの掛金・扶養と配偶者の控除・医療費控除・セルフメディケーション税制・ふるさと納税・住宅ローン控除の条件と金額、手続きを令和8年分(2026年分)の制度で解説します。
手取りを増やす控除とは?
ここでは、控除で手取りが増える仕組みと、年末調整で済む控除・確定申告が必要な控除の区別を整理します。
所得控除は税金のもとになる所得を減らし、税額控除は税金そのものを減らす
手取りを増やす控除は、大きく2種類に分かれます。所得控除は、税金を計算するもとになる所得から一定額を差し引く仕組みで、生命保険料控除や医療費控除など、所得税には16種類あります(国税庁 No.1100 所得控除のあらまし)。
もう1つの税額控除は、計算した税額から直接差し引く仕組みです。会社員がよく使うのは住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)で、同じ1万円でも、所得控除より税額控除のほうが減る税金は大きくなります。ふるさと納税は、所得税では所得控除(寄附金控除)、住民税では税額控除として扱われます。
給与明細の「控除」は天引きのこと。多いほど手取りは減る
「控除が多いと手取りは増えるのか、減るのか」と迷う方は少なくありません。給与明細の「控除」欄は、給与から差し引かれる社会保険料・所得税・住民税などの天引きの合計で、この金額が多いほど手取りは減ります。
一方、この記事で扱う所得控除・税額控除は、税金の計算で使う控除です。申告して控除が増えると、天引きされる所得税や翌年の住民税が減り、結果として手取りが増えます。
減る税金は「控除額×税率」。年収500万円なら控除1万円で約1,500円
所得控除で減る税金は、控除額に所得税と住民税の税率をかけた金額が目安です。年収500万円の会社員(独身・40歳未満・東京都)の場合、所得税率は5%(復興特別所得税を含め5.105%)、住民税は10%なので、控除1万円でおよそ1,500円の税金が減ります。
なお、令和8年分は所得税の基礎控除と給与所得控除の最低額が引き上げられ、年末調整を受ける会社員は申告しなくても令和8年12月の年末調整で精算されます(出典:国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」)。改正の内容は、会社員の節税一覧で解説しています。
年末調整で済む控除と確定申告が必要な控除の早見表
会社員が使う主な控除を、申告の方法で分けると次のとおりです。医療費控除・セルフメディケーション税制・寄附金控除は年末調整では受けられず、確定申告が必要です。
| 控除 | 申告の方法 | 控除額・上限の目安 |
|---|---|---|
| 生命保険料控除 | 年末調整 | 最高12万円 |
| 地震保険料控除 | 年末調整 | 最高5万円 |
| 小規模企業共済等掛金控除(iDeCo) | 年末調整 | 掛金の全額 |
| 扶養控除・配偶者控除 | 年末調整 | 扶養は1人38万〜63万円、配偶者は最高48万円 |
| 医療費控除 | 確定申告 | 10万円超の部分(最高200万円) |
| セルフメディケーション税制 | 確定申告 | 1万2,000円超の部分(最高8万8,000円) |
| 寄附金控除(ふるさと納税) | 確定申告またはワンストップ特例 | 寄附額−2,000円(上限あり) |
| 住宅ローン控除(税額控除) | 1年目は確定申告、2年目から年末調整 | 年末残高×0.7% |
※所得税の控除額。令和8年分(2026年分)・2026年10月時点の国税庁タックスアンサーより。住民税の控除額や所得要件は、所得税と一部異なります。
「給与が増加した場合の税額控除」は会社向けの制度で、会社員が申告するものではない
「給与が増加した場合の税額控除」は、いわゆる賃上げ促進税制のことです。給与の支給額を増やした会社(法人)などが法人税から差し引く制度で、給与を受け取る会社員が申告して使うものではありません(国税庁 No.5927-2)。
年末調整で受けられる手取りを増やす控除
年末調整で受けられる控除は、勤務先に書類を出すだけで、多くの場合12月か翌年1月の給与で税金が精算されます。勤務先から秋ごろに配られる申告書と、保険会社などから10〜11月ごろに届くことが多い控除証明書をまとめ、勤務先の締め切りまでに出すと出し忘れを防げます。
生命保険料控除は3区分で最高12万円。新契約は年8万円超の支払いで各4万円
生命保険料控除は、一般の生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の3区分ごとに控除額を計算し、合計で最高12万円を差し引ける制度です(国税庁 No.1140 生命保険料控除)。平成24年1月1日以後に結んだ新契約の控除額は、年間の支払保険料に応じて次のように決まります。
| 年間の支払保険料 | 控除額(各区分) |
|---|---|
| 2万円以下 | 全額 |
| 2万円超4万円以下 | 支払保険料×1/2+1万円 |
| 4万円超8万円以下 | 支払保険料×1/4+2万円 |
| 8万円超 | 一律4万円 |
※新契約の場合。旧契約(平成23年12月31日以前)は1区分最高5万円で計算が異なります。
令和8年分からは、23歳未満の扶養親族がいる場合、一般の新生命保険料の控除額が最高6万円(年12万円超の支払いで一律6万円)に引き上げられました。3区分の合計の上限12万円は変わりません。
手続きは、保険会社から届く控除証明書を「給与所得者の保険料控除申告書」に添えて勤務先に出します。年収500万円の例では、一般の生命保険料で4万円の控除を受けると、所得税と住民税(住民税の控除は最高2万8,000円)で年約4,800円減る計算です。
地震保険料控除は地震保険料の全額で最高5万円。火災保険の部分は対象外
地震保険料控除は、その年に払った地震保険料が5万円以下なら全額、5万円を超えると一律5万円を差し引ける制度です(国税庁 No.1145 地震保険料控除)。対象は地震などの損害を補償する部分の保険料で、火災保険の保険料そのものは対象になりません。
平成18年末までに結んだ一定の長期損害保険契約は、経過措置として最高1万5,000円の控除を受けられる場合があります。住民税の控除は支払額の2分の1で最高2万5,000円です。控除証明書を生命保険料と同じ保険料控除申告書に添えて出します。
iDeCoの掛金は全額が控除。払込証明書を保険料控除申告書に添える
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、小規模企業共済等掛金控除として、その年に払った全額を所得から差し引けます(国税庁 No.1135 小規模企業共済等掛金控除)。給与からの天引きで払っている場合は勤務先の案内に従い、口座振替で自分で払っている場合は、国民年金基金連合会から届く払込証明書を保険料控除申告書に添えて出します。
年収500万円の会社員が月2万円(年24万円)を出すと、所得税と住民税で年約3.6万円減る計算です。会社員の掛金の上限(2026年11月分まで月2.0万〜2.3万円)は、2026年12月分から企業年金の掛金と合わせて月6.2万円までに引き上げられます(国民年金基金連合会)。ただし、原則60歳まで引き出せず、運用の成果によっては元本割れのおそれがあります。控除額だけで掛金を決めず、生活費に余裕がある範囲で考える制度です。
扶養控除・配偶者控除は、令和8年分から家族の所得62万円以下(給与136万円以下)が目安
16歳以上の扶養親族がいると扶養控除、配偶者がいると配偶者控除・配偶者特別控除を受けられます。令和8年分から、扶養親族や控除対象配偶者になる所得の要件が58万円以下から62万円以下(給与だけなら年収136万円以下)に上がりました(国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」)。
| 控除 | 主な条件(令和8年分) | 控除額 |
|---|---|---|
| 扶養控除 | 16歳以上・所得62万円以下 | 38万円(19〜22歳は63万円、70歳以上は48万円、そのうち同居の親などは58万円) |
| 配偶者控除 | 配偶者の所得62万円以下・本人の所得1,000万円以下 | 最高38万円(70歳以上は最高48万円) |
| 配偶者特別控除 | 配偶者の所得62万円超133万円以下・本人の所得1,000万円以下 | 最高38万円(配偶者の所得が上がると段階的に減る) |
| 特定親族特別控除 | 19〜22歳の親族・所得62万円超123万円以下 | 最高63万円 |
※所得税の控除額。住民税の控除額・所得要件は所得税と一部異なります。出典:国税庁 No.1180 扶養控除・国税庁 No.1191 配偶者控除・国税庁 No.1195 配偶者特別控除・国税庁 No.1177 特定親族特別控除(令和8年4月1日現在法令等)
今回の改正で新たに扶養の条件を満たす家族がいる場合は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を出し直す必要があります。家族の収入や年齢が変わったときも、年末調整の前に申告書の内容を確かめておくと漏れを防げます。
住宅ローン控除は2年目から年末調整で受けられる
住宅ローン控除は、1年目だけ確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で受けられます(国税庁 No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合)。2年目からは、税務署から届く「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書兼給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関から届く年末残高等証明書を勤務先に出します。
確定申告が必要な手取りを増やす控除
医療費控除・セルフメディケーション税制・ふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)・住宅ローン控除の1年目は、年末調整では受けられません。原則として翌年2月16日〜3月15日の確定申告(国税庁 No.2020 確定申告)か、翌年1月1日から5年以内の還付申告で受けます(国税庁 No.2030 還付申告)。確定申告書の作り方は、副業の確定申告の記事でも流れを紹介しています。
医療費控除は10万円を超えた分。家族の分も合算でき、通院の交通費も対象
医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に払った医療費から保険金などで補てんされる額を引き、さらに10万円を引いた額を差し引ける制度です(最高200万円)。総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく総所得金額等の5%を引きます(国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき)。
生計を一にする配偶者や親族の医療費も合算できるため、家族の分を1人にまとめて申告すると10万円を超えやすくなります。対象になるもの・ならないものは次のとおりです(国税庁 No.1122 医療費控除の対象となる医療費)。
| 対象になる主なもの | 対象にならない主なもの |
|---|---|
| 診療・治療の費用、治療のための薬代 | 健康診断の費用(原則)、ビタミン剤など予防・健康増進の薬 |
| 通院の電車・バス代 | 自家用車のガソリン代・駐車場代 |
| 入院の部屋代・食事代(通常必要なもの) | 公共交通機関が使えるときのタクシー代 |
申告では、領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作って確定申告書に添えます。健康保険から届く医療費通知を添付すると、明細の記入を簡略化できます。年収500万円の例で医療費が15万円なら、控除は5万円で、所得税と住民税で年約7,500円減る計算です。
セルフメディケーション税制は対象の市販薬が1万2,000円超。医療費控除とはどちらか一方
セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例です。健康診断や予防接種などを受けている方が、対象の市販薬(スイッチOTC医薬品等)を年1万2,000円を超えて買った場合、超えた部分を最高8万8,000円まで差し引けます(国税庁 No.1129 セルフメディケーション税制)。
通常の医療費控除とはどちらか一方しか選べず、申告後に選び直すことはできません。病院代が少なく市販薬が多い年に向いています。対象の商品は、レシートに対象である旨の表示があるので確認できます。年収500万円の例で対象の市販薬を年3万円買った場合、控除は1万8,000円で、所得税と住民税(税率は合わせて約15%)で年約2,700円減る計算です。申告では「セルフメディケーション税制の明細書」を確定申告書に添えます。
この特例は令和8年(2026年)12月31日購入分までの予定でしたが、令和8年度税制改正で延長・見直しが行われ、令和9年以降も対象を見直して続きます(厚生労働省「セルフメディケーション税制について」、2026年10月時点)。
ふるさと納税は5団体以内ならワンストップ特例、それ以外は確定申告で寄附金控除
ふるさと納税は、寄附額のうち2,000円を超える部分が、所得税と住民税から控除される制度です(国税庁 No.1155 ふるさと納税(寄附金控除))。所得税は寄附額から2,000円を引いた額の所得控除、住民税は税額控除で、控除される額には年収や家族構成によって上限があります。
確定申告が不要な会社員で寄附先が5団体以内なら、寄附先の自治体に申請書を出す「ワンストップ特例制度」を使えます。この場合は所得税からの控除はなく、翌年6月以降の住民税が減る形で控除されます(総務省)。寄附先が6団体以上の方や、医療費控除などで確定申告をする方は、寄附金の受領証をもとに確定申告で寄附金控除を受けます。
住宅ローン控除の1年目は確定申告。年末残高の0.7%を最長13年
住宅ローン控除は、年末のローン残高に0.7%をかけた額を、所得税から直接差し引ける税額控除です。令和12年(2030年)12月31日までに入居した場合が対象で、新築の場合は住宅の省エネ性能や入居した年によって借入限度額と控除期間(最長13年)が変わります。令和6年以降に入居した新築住宅のうち、省エネ基準を満たさないものは原則として対象外です。床面積50平方メートル以上(一定の場合は40平方メートル以上)、その年の合計所得金額2,000万円以下などの条件があります(国税庁 No.1211-1 住宅借入金等特別控除)。
1年目の確定申告では、「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」、金融機関の年末残高等証明書、家屋の登記事項証明書、売買契約書や工事請負契約書の写しなどを添えます。所得税から引ききれない分は、一定の上限まで翌年の住民税から差し引かれます。
控除を申告するときの注意点
控除は申告しなければ受けられません。出し忘れや申告方法の誤りで控除を逃さないための注意点をまとめます。
確定申告をするとワンストップ特例は無効。ふるさと納税も申告書に含める
ワンストップ特例を申請した方が医療費控除などで確定申告をすると、ワンストップ特例の申請は無効になり、ふるさと納税の分も含めて寄附金控除を計算する必要があります(国税庁 No.1155 ふるさと納税(寄附金控除))。申告書の「住民税に関する事項」にもふるさと納税の金額を書かないと、住民税で控除されないことがあります。
出し忘れた控除は、翌年から5年以内なら還付申告で取り戻せる
年末調整で生命保険料控除を出し忘れた、医療費控除を申告していなかったという場合でも、その年の翌年1月1日から5年間は還付申告ができます(国税庁 No.2030 還付申告)。過去の源泉徴収票で、受けている控除の欄を確かめておくと漏れに気づきやすくなります。
控除のために保険や投資を増やすのは避ける。商品は控除額で選ばない
生命保険料控除やiDeCoは、払ったお金の一部が税金で戻るだけで、払った額以上に手取りが増えるわけではありません。たとえば新契約の一般の生命保険料は控除4万円が上限で、年収500万円なら減る税金は年約4,800円です。控除を増やす目的で保険に入ったり掛金を増やしたりすると、かえって手元のお金が減ることがあります。保険は必要な保障から、iDeCoは老後資金の計画と元本割れのリスクを踏まえて、それぞれ検討する制度です。
【まとめ】手取りを増やす控除は年末調整の書類から確かめよう
当記事では、会社員が手取りを増やすために使える控除の条件・金額・手続きを、年末調整で済むものと確定申告が必要なものに分けてご紹介しました。
- 生命保険料控除(最高12万円)・地震保険料控除(最高5万円)・iDeCo(掛金の全額)・扶養と配偶者の控除は年末調整で受けられる
- 令和8年分から、扶養親族や控除対象配偶者の所得要件は62万円以下(給与だけなら136万円以下)
- 医療費控除(10万円超)・セルフメディケーション税制(1万2,000円超)は確定申告が必要で、どちらか一方を選ぶ
- ふるさと納税は5団体以内ならワンストップ特例、確定申告をする年は申告書に含める
- 出し忘れた控除は5年以内なら還付申告で取り戻せる
まずやる1つは、手元に届いた控除証明書を集め、今年の年末調整の申告書に書き漏れがないか確かめることです。控除で減る税金には限りがあるため、手取りをさらに増やしたい方は手取りを増やす方法や、年収を上げたい人がやるべきこともあわせて参考にしてみてください。
投資には元本割れのリスクがあり、運用成果は保証されません。投資判断はご自身の判断と責任で行ってください。税制・制度の内容は改正されることがあるため、最新情報は金融庁・国税庁等の公式サイトでご確認ください。本記事の情報は2026年10月18日時点のものです。

